約 3,436,938 件
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/219.html
「ねぇ…ラブちゃん」 甘えた声で話しかける祈里に、ラブは優しく微笑み返した。 「なあに?どうしたの祈里」 「あのね…。…やっぱり恥ずかしいな」 モジモジと身をよじり、顔を赤らめる祈里を愛おしく思いながら、ラブは答えをせかした。 「なによ~気になるなぁ。ねぇ、なになに?」 今日は、久しぶりのふたりっきりのデート。 お互いの顔を見つめながら会話をする。 恋人同士だから当然の事なのに、それがこんなに楽しくなっちゃうなんて。 「あのね……この前、美希ちゃんがせつなちゃんに服を選んでもらったじゃない?あれ、すっごく羨ましいなぁって思って…」 「そっか!じゃあ今日はあたしが祈里に服を選んであげるよ!」 「ホント?嬉しい!」 「そのかわり…」 ラブは、左手をそっと差し出した。 「手…つなぎたいな」 「えっ」 突然のラブの申し出に、祈里はみるみる頬を染める。 ラブはわざと、少し意地悪に続ける。 「手つなぐの、アタシとじゃ…イヤ?」 「そ、そんな訳ないじゃない!だって…、大好きなラブちゃんだもん!」 「じゃあ、どうしてもっと喜んでくれないの?」 「違うの!……ただ、久しぶりだから嬉しくて…、ビックリしちゃっただけなの」 「だったら…」 「…ウン」 お互いの手が伸び、触れ合い、確かめ合う。 指と指をからませ、強く握ったり、ふっと抜いたり。 (ヤダ……、胸がドキドキしてる。恥ずかしくて、ラブちゃんの顔見られないよ…) 真っ赤な顔でうつむく祈里を、ひょいとラブが覗き込む。 「ありがとね、祈里。これで明日からまた頑張れる」 「ラブちゃん…」 「祈里は、アタシの元気の源なんだ。だから、これでパワー充電完了だよっ!」 ラブのとびっきりの笑顔につられて、祈里まで自然と微笑んでしまう。 「ラブちゃんには敵わないなぁ」 昔から祈里は、この〝笑顔〟に弱いのだ。 そして、これからもきっと…。ずっと永遠に…。 了
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/780.html
祈里(す、すごい・・・) まるで、高熱を出した赤子のような顔をして書物を見詰める一人の少女。 美希(愛し合うとはこれぐらい情熱的じゃないとね) クール、その言葉がまさに的確。整然と書物を見詰める一人の少女。 せつな(どうすればこんなになれるのかしら?私は無理かしら?) 顎に手を置き、難しそうに首を傾げる一人の少女。 ラブ「よっしゃ!新刊ゲットだよっ!早速試しちゃうよぉ~」 三人とは正反対。鼻息荒くそそくさと書物を購入する好奇心旺盛な一人の少女。 思春期。 何事にも興味のあるお年頃。 奥が深いですよ、あの世界は・・・
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/19.html
ある日のお風呂 ラブ「せつな、あたしも入ってもいい?」 せつな「っっ!!まだいいって言ってないでしょ!」 ラブ「隠さなくてもいいじゃん。せつな結構オッパイおっきいんだね~」 せつな「ちょっ!触らな…あん…や…め…」 ラブ「あれ-何かせつなの先っぽとがってきたよ?固くてコリコリしてる」 せつな「…ふぁ…駄目…」 ラブ「せつな…すんごく可愛い。続きはあたしの部屋でしよっか」 筆力なくてすみません
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/798.html
昼下がりの、 気持ちいい風。 子供たちが、ボールを手に 遊んでいる。 同時に背伸びをして、 お互いに、くすっと笑う。 「すごいよせつな! とっても気持ちいいよ!」 「嬉しいわ。 ラブにそう言ってもらえると。」 せつなに連れてきてもらった、 復興中のラビリンス。 四つ葉町をモデルにした、 広い丘。 草の香りが、鼻をくすぐる。 「ねぇせつな、あの建物、何?」 穏やかな広場に似つかわしくない 無骨な建物。 その形は、あたし達がここで 闘っていた時に、よく見ていた形。 はずみで聞いたことを、 後悔した。 しばらく返事をしなかったせつなが、 ふっと顔を上げた。 「...行きましょ、ラブ」 胸の鼓動まで聞こえそうな、 静まりかえった空間。 冷え冷えとした空気。 「せつな、ここって...」 「訓練施設、だったの」 せつなが、壁を 見つめながら話す。 「私が四つ葉町に来る前、 ここで訓練されたの」 壁に反射する声。 語られるのは、 せつなの、イースの、過去。 幹部兵士として派兵される前に、 徹底的に訓練されたこと。 脱落者は、次の日から 姿を見なくなったこと。 当たり前のように、 空席が増えていったこと。 この頃、デリートホールの存在を 知ったこと。 デリートホールの目の前で行われた、 直接の戦闘訓練。 自らの手で、何人も 落としたこと。 命が、軽い世界だった。 挙げ句の果てに、せつな自身も 一度、命を失った。 「ごめん、せつな...」 また、思い出させちゃった。 聞くんじゃ、なかった。 最低だ、あたし。 下を向いたあたしの手を、 せつなが握ってくる。 「大丈夫よ、ラブ」 顔を上げる。 目の前の、せつなの顔。 はっとした。 四つ葉町で時々見せていた、 後悔に揺れる瞳じゃない。 強く、優しい 瞳の光。 今までの、悔い。 今までの、悲しみ。 湖水のように、たたえたまま それでも、強く光る決意。 全部飲み込んで、 前を向く。 みんなを、 必ず幸せにする。 「私、ここへ戻って、 あらためて気づいたの」 「笑顔と、幸せにあふれた世界にすることが、 私が出来る、たったひとつのことだって...」 「うん...」 「精一杯頑張るって、決めたの」 あたしなんかよりも、 ずっと大人だ。 ぎゅっと、手を握り返す。 手を繋いだまま、建物を出た。 「あっ!お姉ちゃんだ!」 「遊ぼ!遊ぼ!」 子供たちが、せつなの元に駈け寄る。 「いいわよ、何して遊ぼっか?」 離れたせつなの手は、 たちまち子供たちに取られる。 せつなはもう、ラビリンスに しっかりと、足を着いている。 せつなの居場所は、 ここなんだ。 「お姉ちゃんも!」 あたしの手も、子供たちに取られる。 「よーし、あの丘の上まで競争だよ!」 「わーい!負けないよー!」 みんなで、いっせいに走る。 先を走る、せつなの後ろ姿。 遠くなる。 ふいに、 視界がかすんだ。 少し乱暴に、目をこする。 よかったね、せつな。 嬉し涙だと、 言い聞かせた。
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/883.html
「もう11月ね……」 せつなはベランダに出てため息をつく。吐息が白く染まる。 秋から冬に移り変わる季節。今年は特に寒いのだとか。 毎日が穏やかで充実した日々。不満なんてあるはずもないけれど……。 夜空を見上げる。冬が近づくとともに雲が増え、滅多に星が見えなくなった。今日も同じ。 細く欠けた三日月だけが、雲の合間から顔を覗かせていた。 ラブの部屋の方を見る。既に電気が消えていた。風邪気味だとかで早く寝たのだ。 またため息を付く。秋は人恋しい季節なんだって祈里が言っていたのを思い出した。 うんうん、って頷いてたラブと素直に聞いていた自分。そしてもう一人、「アタシは平気よ」ってすました 顔をしていた親友を思い出す。 無性に会いたくなった。今――――すぐに。 自分のワガママに呆れそうになる。人はどこまでも貪欲で満たされることを知らない。明日も会えるの にと思う。 「キィ――」 突然リンクルンからアカルンが飛び出した。嬉しそうにせつなの周りをクルクルと回る。 「もう、突然びっくりするじゃない。そう、あなたも会いたいのね?」 「キィ――」 「じゃ、こっそり押しかけて驚かせちゃいましょ」 せつなとアカルンは赤い球体に包まれて、光の速さで飛び立った。 せつなは軽やかに着地する。ここは美希の部屋。目を閉じてたってわかる、素敵な香りが教えてくれる。 美希はベランダにいた。艶やかな美しい髪が部屋の光を反射してキラキラと輝く。 パジャマにスリッパ。寝る前の一番気を抜いた時ですら、まして後姿ですら、美希の美しさは人の目を 惹きつけて離さない。 ちょっと悔しくなってイタズラしてみたくなる。 あの格好では寒いはず。掛けてあったカーディガンを手にそっと忍び寄った。 「これでしょ?」 「ひぃぃぃ」 「うるさい」 「あ、あんたねぇ……」 美希は始めはびっくりして、その後ぽかーんとして、そして嬉しそうな顔になって。最後には照れ隠し に怒りだした。 「大体、人の家に急に現れるとか犯罪行為なの。わかる?」 「キ…キィ…」 「アカルンをイジメないで!かわいそうでしょ」 「アタシはせつなに言ってるのよ!」 「それなら平気よ。美希以外には絶対にしないから」 「アタシが平気じゃないって言ってるのよ!」 「本当は嬉しいクセに」 「なっ!そ、そんな事……」 「美希が月を見つめるなんて、寂しい時くらいでしょ」 「はいはい、もうわかったわよ。その通りその通り」 美希が笑顔を取り戻してせつなに座るように促してきた。笑顔といっても苦笑の類だけど、友達に会え て嬉しくないはずもない。 お茶を入れる美希の様子を穏やかな目でせつなが見つめた。 常に自分に高いハードルを架している美希は、滅多に弱みを人に見せることが無い。突然押しかけた ことは申し訳ないと思うけれど……。 こうして慌てたり、驚いたり、恥ずかしがったり、怒ったり。素のままの美希と触れ合える時間は貴重 だった。 (本当は嬉しいクセに) 誰にいった言葉やら。可笑しくなって忍び笑いした。美希が目ざとく見つけて問いただしてくる。 なんでもないって手を振ってごまかした。 自分こそ、寂しくなってアカルンの好意に甘えたクセにと思う。 同じ時間にベランダで夜空を見ていた。正直になれないところも、強がりなところも、本当によく似て いると思う。 お互いに寂しい過去を持つもの同士。心は三日月のように欠けて満ちることがない。 そんな寂しさを埋めあうように、今夜は一緒に眠ることにした。 「ところで……なんでアタシが下で寝るのよ」 「私、ベッドじゃないと寝れないから」 「床はこの時期冷たいんだけど?」 「じゃあ、ベッドに入れてあげてもいいわ」 「素直に一緒に寝ようって言えばいいのに」 「フンだ。そっちこそ」 満たされない二人の満ち足りた夜。お月様とアカルンだけが静かに見守っていた。
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/411.html
まさか沖縄でも戦う事になるなんて。 せっかく楽しみにしていた修学旅行も、大輔との ゴタゴタやソレワターセとの戦いで一日があっとゆー間に 過ぎちゃった感じ。 夕飯を食べたあたしは一人、海岸を歩いていた。 ほんとは外出禁止なんだけど、コッソリね。 沖縄だけあって、夜でもまだ半そででいれる。 テトラポットの上に立って夜空を見上げる。 「うっわぁ~、キレイすぎるよ~」 手の届きそうな距離にある星空。 掴めそうなお星様。 (あたしたちだけに輝いてくれればいいのに) 再び海岸を歩く。 今度は浜辺まで歩を進めて。 外灯と月の光で海は照らされてる。 すごく静か。 波音と波風が心地よくて。 砂浜に腰を下ろしてふと考える。 (今度はあたしたちだけで来ようね) 傍に落ちていた小枝で砂浜に落書き。 桃園ラブ 東せつな それを相合傘で囲む。 ちょっと顔が熱くなる。 恥ずかしくなって砂浜に寝転ぶ。 そっと目を閉じて冷静さを取り戻す。 すると、満天のお星様がこう呟くの。 「何やってんの?」 「好きな人と一緒になりたいって…」 「ってせつな!!!???」 見上げるとあたしの顔を不思議そうに覗き込んでいて。 「てっきり寝ちゃうのかと思った。うふふ。」 そんな訳ないでしょ。と、心の中でつっこみつつあたしは 体を起こして。 「静かだね。」 「えぇ。」 そう言ってせつなはハンカチを取り出して砂浜に引く。 「二人じゃはみ出しちゃうわね。」 「汚れちゃうよ?」 「洗えばいいじゃない。」 「ま、そうだけど。」 あたしたちは体温がわかるぐらいに密着して座る。 沖縄だし暑くなるかな?とも思ったけど。 「なぁに、この字。絵…かしら?」 すっかり消すことを忘れていたあたしの〝夢〟 「あ、あはははは。」 照れ笑い。夜で良かったよ…と。多分まっかっか。 好きだよ!なーんてまだまだ言えないもん。 あたしたちにはまだまだやる事がいっぱいあるしね。 恋だの愛だの言ってたらシフォンやみんなを守れないもん。 「ね、ラブ。」 「ん?」 「何でもない。」 「ちょっとぉ。気になるじゃん。」 「じゃ気にして。」 「何をー?」 「私の事。」 せつなはあたしを見透かしてるかのよう。 全てをお見通しな感じで。 てかバレバレ… 「そう言えば……、やっと二人きりになれたね。」 「ようやく気が付いたの?」 「…うん。」 「遅すぎ…。」 静寂の中で重ねた唇。 やっと訪れた二人だけの時間。 今はもう少しだけ、こうしていたいと思った。 ―――みんな、許してね――― ~END~ 6-732ではその後の二人が…
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/796.html
鏡の中の少女はゆったりと微笑んでいる。 少し下がった目尻に丸い頬。いかにも優しげな、おっとりとした雰囲気。 まるで邪気のない、無垢な天使の微笑み。 (でもね、わたしは知ってるの。) あなたは決して天使なんかじゃない。無垢とは駆け離れた汚濁にまみれた存在だと言う事を。 欲しいものの為ならどんな卑怯な真似も出来る。 己の欲望の為なら親友を裏切る事すら厭わない。 それが誰よりも愛している筈の人をズタズタに切り裂く行為だとしても。 (笑いなさい、わたし。) 彼女の望む笑顔を。 それで今更せつなが安らげる訳ではない事は分かっている。 それでも他に出来る事など思い付かない。言われるままに偽りの微笑みで向き合うしかない。 悲しいくらいに無力な子供だ。逃げ出す勇気すら持てないのだから。 鏡を指でなぞる。どうと言う事はない、と言い聞かせる。 いつものお出掛け。待ち合わせして、四人で買い物。 お喋りして、お茶を飲んで、それぞれの家路につく。それだけだ。 何も起こりようがない。今までだってちゃんと出来た。 だから今回だって平気。近付き過ぎないように。かと言って、避けている様には見えないように。 大丈夫。またせつなに会える。話が出来る。それで充分幸せではないか。 (さあ、行きましょうか。) 鏡の中の少女が微笑み返してくれる。 この表情を忘れないで。これ以外の顔を見せては駄目。 (…分かってる。ちゃんとやれるから。) 時計は待ち合わせの10分前。ちょうどいい時間だ。 以前ならこんなにギリギリに出るなんてあり得なかった。人を待たせるのは嫌い。 時間に遅れるのは相手の時間を盗む事。 人を待たせるのは、自分の所為で無駄な時間を使わせる事。 そう両親から躾られて来た。 待つのは平気。本が一冊あればいくらでも待てる。 だから待ち合わせはいつも一番乗りだった。 自分の姿を見つけて、嬉しそうに手を振って駆けて来てくれる友達の姿を 見るのが待ち合わせの楽しみの一つだったから。 でも今は違う。 必ず最後に現れるようにしてる。 ゆっくり歩き、最後だけ少し小走りに。いかにも遅れそうだったので慌てている、と言う風に。 急に遅刻するようになった祈里を誰も、ラブも、美希も、せつなも咎めた事はなかった。 理由なんて聞くまでも無いのだから。 せつなと二人きりになる訳にはいかない。 ラブと三人でも駄目だ。美希が間にいてくれて、四人なら。 四人なら何とかなる。 歩きながら時計を見る。慎重に、不自然にならない程度に歩調の速さを調節しながら。 (………あ……。) ドーナツカフェ、せつなが一人座っている。いつも側にいる筈のラブの姿は見えない。 少し隠れて様子を見た方がいい。そうした方がいいのは分かっていたけど…。 静かに本を読んでいるせつなの横顔。時々髪を耳に掛ける仕草。その白い指先。 姿勢良く、すっと伸びた背中。綺麗に揃えられた足。 目が、離せなくなった。 胸が締め付けられる。 ふと、せつなが顔を上げた。立ち尽くす祈里に気付いたのだ。 本を閉じ、柔らかく微笑む。小さく手を上げて祈里に振ってくれる。 涙が出そうになった。思わず、錯覚しそうになる。 「あの事」はせつなを求める余りの妄想だったのではないのか。 実る筈のない初恋。持て余す程の想いが見せた幻だったのではないのか。 そうでなければ…… せつなが、今でも微笑み掛けてくれる訳がないのではないか、と。 しかしそんな甘い幻想は一瞬で潰える。 「せーつなぁ!おっ待たせえぇぇ。」 ラブが駆け寄り、後ろからせつなに抱き付く。 「あ、ブッキーも来たんだ!おーい、やっほー!」 眩しいくらいの朗らかさで手招きするラブ。 でも笑顔の前に投げ掛ける瞬きにも満たない、色の無い視線。 勘違いしないで。 あなたがここにいるのは許されたからじゃない。 あなたはまだ何も償ってはいない。 (分かってるわ、ラブちゃん。) その視線が残す、棘とも言えない程の小さな楔。 都合のいい幻に囚われそうになっていた祈里の中に深々と食い込む。 ごめんなさい、ちゃんと分かってます。 もう二度とあなたの恋人を傷付けたりしません。 指一本触れません。 笑顔を浮かべ、側に。それだけを守ります。 「美希ちゃんは?遅れるなんて珍しいね。」 「あれ?ブッキー連絡行ってない?」 「美希、出掛けにおば様と揉めたんですって。」 慌ててリンクルンを見る。時間に気を取られてメールに気付かなかった。 『ごめん!ちょっと遅れる!ママが絡んで来るんだもん。 ブッキー、良かったら先にうちに寄らない? 何ならラブとせつなには先に行って貰って後で合流してもいいし。』 メールを見ながら込み上げる思い。 美希に申し訳ない、と思う。こんなにも気を遣わせてる。 祈里がラブとせつなに近付き過ぎないように、離れ過ぎないように。 「あっ、美希たん来た。」 返信する前にラブの声で我に返った。息を乱して駆けて来る美希が見える。 「ごめんね、美希ちゃん。メール気付かなかった。」 「いいわよ、アタシも出したの時間ギリギリだったし。あ、ラブ、それちょっと頂戴。」 まだ整わない息を静める為か、ラブのジュースを横取りしている。 「あーん、あたしまだ飲んでないよぅ。」 「いーじゃない。後で奢るから!」 「美希、何かおば様に叱られたの?」 せつなの台詞に美希は少しムッとする。 「アタシが叱ってたの!まったく、ママったら!」 「美希は子供なのに?お母さんを叱るの?」 キョトンと首を傾げるせつなに、美希は大袈裟に眉をしかめて見せる。 「あのねぇ、せつな。一口に母親って言っても、みんながみんな あゆみおばさんや尚子おばさんみたいなしっかり者の良妻賢母ばかりじゃないのよ…。」 「?でも、お母さんなんでしょ?」 「いや、だからね…。中学生の娘を一人置いて、『明日からハワイ行って来まぁす!』 って言える人って事で察してちょうだい…。」 皆まで言わせないで。 いかにも苦労人の風情で眉間を押さえる美希に、まだキョトンとしているせつな。 そんな二人をいかにも可笑しそうにケラケラ笑うラブ。 以前より美希は饒舌になった。まるで会話が途切れたら絆まで切れてしまう。そう恐れているかのように。 ラブは逆に余り喋らなくなった。美希とせつなが話しているのを面白そうに聞き、祈里と美希が 話している時は静かにせつなに寄り添っている。 せつなは自然に祈里にも話し掛けてくれる。 今読んでる本の話、手芸の話。祈里が一番話しやすく、そして当たり障りのない話題を。 他愛の無いお喋り、ウィンドウショッピング、甘い物を食べながらの休憩。 以前と何も変わらない。変わったのは、決してラブもせつなも祈里の隣にはならない事。 いつも美希が間に挟まってくれる。それだけだ。大した事じゃない。 ラブもせつなも祈里と目が合えば微笑みを返してくれる。 祈里から話し掛ければ当たり前に答えてくれる。 なのに何故だろう。こんなにも時間がゆっくりと進むのは。 まだ帰る時間にならない。ふとそんな事を考えてしまうのは。 せつなに会えた瞬間、乾いてひび割れていた心に潤いが染み込んでいくのを感じる。 それなのに、何故だろう。会って数時間。会う前よりも心がひりついている。 あんなにも会いたかったのに。 声が聞きたかった。顔が見たかった。同じ空間に立っていられるだけでいい。 そう思ってるのに。 不満なんてあるわけない。 まだせつなが、皆が笑顔を向けてくれる事すら奇跡と言っていいくらいなのに。勝手なものだ。 それなのに一緒の時間が終わってしまえは、また会いたくて会いたくて堪らなくなるのだから。 いつもそう。同じ事の繰り返し。 夕闇が迫り、そろそろ解散になっても自然な時間。 祈里はホッと息を洩らす。 (もう…帰るって言っても可笑しくないよね…。) 苦笑いが込み上げそうになる。 誰の所為でもない。居心地が悪いなんて。そんな事を自分が無意識にでも考えるのは不遜だろうに。 嫌ならさっさと逃げ出せばいい。誰も引き留めはしない。 他ならぬ、祈里の為に皆が色んな思いを飲み込んでいるのだから。 「あの……わたし、もうそろそろ…。」 帰る。そう声を掛けようとした時に、偶々目に付いた。 他意なんて無かった。 本当に、無意識の行動だった。せつなの肩に小さな虫が止まっていた。せつなは気付いていない。 毒がある。刺されたら腫れる。払わなきゃ。ただそれだけだった。 瞬間、祈里の手に走った痛み。 衝撃に半歩ほどよろけてしまった。 せつなの肩に指が触れる、その直前。気付いたせつなに凄い勢いで手が振り払われた。 せつな自身、自分の行動が信じられないのだろう。 色を無くした顔に瞬く間に驚きと罪悪感が広がる。 「……あ、ごめんなさい…。ちょっと…びっくりしちゃって…。」 「あ、うん。こっちこそごめんね。急に触られたらびっくりするよね。」 「………………。」 「………………。」 祈里は必死に顔全体で笑顔を作る。 気にしてない、何でもない。ちょっと驚かせてしまった。ごめんなさい。 せつなに、祈里がそう思ってる様に感じて貰えるように。 申し訳なさそうに俯くせつなに。 お願いだから気にしないで。 あなたが気に病む必要なんて何もない。 わたしが悪いの。どんな理由でも触れたりしてはいけなかった。 無意識だったんでしょう? せつなちゃんはちょっと驚いちゃっただけ。 わたしは、何も気にしてない。わたしが悪いんだよ。 「せつなぁ~、美希たんがもうそろそろ帰ろうかってさー。」 「あ、うん。そうね…。ブッキーはどうする?」 「うん、わたしも帰ろうかな。ちょっと寄り道するからあっちから帰るね。」 そう。じゃ、またね。 そう言ってラブの元に駆け寄るせつなの背中に浮かび上がる安堵した空気。 何度も振り返り、手を振る三人に笑って応える。今日は楽しかった、と。 またね、バイバイ! 後で電話するから! うん、わたしもメールするね。 口々に交わされる言葉。これもいつもの事。予定された別れの挨拶。 一人になった祈里は唇を噛み締める。 せつなに触れようとしてしまった手を血が止まるほど握り締めた。 せつなの青ざめた表情。夢で見たのと同じ顔だった。 そこにあるのは拒絶でも、忌避でも、嫌悪ですら無かった。 紛れもない、恐怖。ただそれだけ。 いつも強く、凛々しいせつな。 ピンと背筋を伸ばし、真っ直ぐに前を見ていた彼女。 それを地面に引き倒し、泥にまみれさせたのは自分だ。 怯え、竦んだ子供のようなせつな。 自分がそうさせてしまった。 祈里は爪が食い込むほど拳を握り締める。 どうか、せつながこの事で心を患わせませんように。 どうか、祈里を傷付けてしまった…そんな風に思いませんように。 (せつなちゃん、ごめんなさい。……せつなちゃん。) せつなは悪夢にうなされてはいないだろうか。 せつなにはラブが付いている。しかし、ラブも夢の中までは守る事は出来ない。 せつなの安らかな眠りを邪魔していないだろうか。 それだけが、気掛かりだった。 間違いなく、せつなは自分と同じ夢を見ている。そんな気がしていた。 み-131へ
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/1008.html
「じゃあ東さん。無理せずゆっくり寝ててね。暫くしたら先生戻ってくると思うから」 「はい。ありがとうございます」 50代半ばの少し太めの担任がふわりとせつなの頭を撫で、保健室を後にした。おっとりした見た目通の人で、めったに怒らないことでも有名だ。 2時間目が終わった休み時間、不意に目眩を感じよろけたせつなは担任に不調を伝えた。普段ならラブよろしく多少のことは気合いで乗り切るせつなだが、今回は流石にまずいと感じ、無理をして逆に迷惑をかけてしまうことを危惧しての報告だった。 短い期間ながらせつなの性格をつかみつつあった彼女は、よほどのことだと思いすぐさま保健室へ行くことを進めた。しかし3限終わりまで保健の教務が出かけていることを思い出し、簡単な報告書と処置は彼女が引き受けたのだった。 「頭痛い……」 せつなはゆっくりと簡素なベッドへ寝転んだ。 ズキズキと痛む頭に手をそえながら、原因を考える。そしてすぐに思い至った。 ───あたしはラブじゃない 思い出して、そして溜息。 雨が降る中、しばらく動けなかった自分。すなわちそれは無抵抗に雨粒を全身で受けとめること。 昨日から特定のメロディーを鳴らさない携帯。 期待を込めて、ゆっくりと携帯を開く。 新着メールが一件。 おはよう 大丈夫? 親友からのメール。 せつなは嬉しさと悲しさで一杯になる。 期待していた人物からのメールはなかった。 じわりと瞳に涙が溜まる。 昨日散々泣いたはずが涙はとどまるところをしらない。 「くっ、うっ……ひく」 誰もいない保健室にせつなの嗚咽が響く。 無意識にリンクルンを握りしめ、彼女の名前を囁く。 美希 美希…… なぜあんなことになってしまったのだろう 会いたい 話がしたい せつなは更に頭が痛むのを感じた。 「っ……みきぃ」 その時 ぱあっと部屋が朱い光に包まれた。見たことある光景。しかしせつなはコレを内側からしか見たことがない。 とさりと音がして、目の前に人が現れる。 「なん、で……!?」 せつなはただただ驚くばかりだった。そしてそれはその人物も同じ。 「ここは………せつな?」 「美希」 その時キーっと相棒が飛び出してきた。もしかしなくともこれはアカルンが何かしたらしい。 「こんな能力あったの?」 「ない……はず」 美希はここがせつなの学校の保健室だとわかると、ムッと顔をしかめる。 「あたしの学校に帰して。いきなりなんなの。嫌がらせ?」 「違っ、美希」 せつなは美希を困らせたかったわけではない。それを伝えようとするのに、頭がぼんやりして言葉が上手くでてこない。 「話……したくて」 「ねぇ、話なら後でするから。あたし見つかったら大変だから早く……せつな?」 ガンガンと頭に鈍痛がはしる。せつなの額に汗が滲む。 「どうしたの?ちょ……せつな!?」 ばたんと前のめりに倒れ込んで、せつなの意識はぷつりと途切れた。 (……気持ちい) ひんやりと額に冷たさを感じ、せつなはそっと目を開けた。 「み……き」 「熱あったみたい。ごめんなさい、怒鳴ったりして」 「ううん」 額には濡らされたタオルが乗っていた。せつなは無意識に手を伸ばす。美希は戸惑いながらもその手を握った。 「なんかね、せつなが体調悪いのがアカルンに影響して誤作動起こしたみたい」 「そう……なの?」 「きつい?」 「ん……少し」 少しなわけないじゃないと美希が苦笑した。 「昨日あのあと、すぐ帰らなかったの?」 「…………うん」 「そう……」 沈黙が続く。お互い何か話さなきゃと思うのに上手く言葉が出てこない。 「あ、学校戻らないと駄目よね。すぐ送るから」 「もういいわ。へろへろなのにアカルン使ってまた体力消耗するわよ」 「ごめんなさい」 せつなが落ち込む姿を見て、美希は頭を抱え込む。 「ごめん。また傷つけた。違うの……こんな風に言いたかったわけじゃなくて」 「うん」 「………駄目だねあたし。余裕なさすぎ」 美希は小さく呟いて、せつなの手をそっと離した。温もりが離れた瞬間、せつなに寂しさが戻る。 「距離、おかない?」 美希はせつなと視線を合わせようとはしない。せつなは言葉の意味が理解できなかった。 「距離をおくって?」 「今、話してもあたし多分、せつなと上手くやっていく自信ない……だから、一時的に離れたいの」 「……っ」 ズキリとせつなの心が傷んだ。美希もそれだけ傷ついているということだから。 「あの、私は美希のことがす 「言わなくていいから。ごめん。聞きたくないし、信じれない」 美希は泣きそうな顔をしている。せつなは堪えきれず涙を流した。 「………泣かないでよ。わかってるわよ。あたし最低だって」 「ちがっ。美希……」 せつなは必死に泣くのを止めようとするのに、涙は次から次へとこぼれ落ちる。 美希は悲痛な顔でそれを見ていた。本当は自分も泣きたくてたまらないのに。 そして、視線を下げる。 拳を握りしめ自分の無力さに歯痒さを感じ。 こんな時、きっと彼女なら――― 美希はギリッと唇を噛む。 比べることはない。自分は自分だと、仕事がら沢山の人と接する美希は、自分を磨くため常にそう思ってきた。 なのに、せつなのこととなるとそうはいかない。 どうしても彼女の存在がちらついてしまう。 「ラブなら、こんな風にせつなを泣かせたりしないのに」 美希は自分自身に語りかけているようだった。その瞳はもう何も写していない。 「ラブは……関係ないでしょ?」 「うん。あたしが勝手に比較してるだけ。無理……勝てない」 ふっと小さく自虐的に美希は笑い、せつなを見る。 「あたしたち、間違ったのかもね」 「間違う?」 「うん、けど責任は全部あたしにあるから。せつなは悪くない」 「……本気で言ってるの?」 美希は少しだけアカルンで帰してもらえばよかったと後悔していた。それでもいずれはこうなったのだからと言い聞かせる。 「本気よ。あたしじゃせつなを幸せにはできない」 「美希っ!」 せつなは叫ぶ。美希の瞳はやはり何も写していなかった。 「ラブとヨリ戻した方が幸せになれるよ」 ぱあんっ 静かな部屋に渇いた音が響く。 「っ……」 「なんで……そんなこと、言うの?」 ハッと美希は目を見開く。そして自分が発した言葉を思い出す。 決して言ってはいけないと自分で決めていた言葉。 それはせつなもラブも、そして自分をもすべてを傷つける言葉。 「…………あたしは」 美希はうろたえてせつなを見た。せつなは美希を睨みつけ、嫌悪の表情を浮かべている。 「最低」 せつなは保健室を出て行った。 残された美希は糸が切れたように床に座り込む。 そして、ぼたぼたと流れる涙をただ呆然と見ていた。 ―二年後― 白い指で洋書のページをめくった。 女性というにはあどけさなの残る美しい容姿。 誰もいない公園のベンチに彼女は今日も座っている。 「洋書なんて、あたしには縁がないわね」 「書物全般じゃない?」 クスクスと目の前に現れた人物が笑う。 そして黒髪の高校生はそっと本を閉じた。 「待ちくたびれたわ」 「そう?せつなが早く来過ぎるから」 「ごめんなさいも言えないの?」 せつなが苦笑すると、蒼い髪の少女は笑って、彼女を跨ぐようにベンチに座る。 「ごめんなさい」 顔を近づけ、唇を合わせる。せつなはぎゅっと彼女の制服を掴んだ。 もう、 離れることがないように。 触れ合うだけの長い口づけを交わし、蒼い髪の少女は息を整えるため深呼吸する。 「あたしはせつなのことが好き……。もう一度付き合ってくれませんか?」 二年かかって言えた言葉。 もう誰かと比べたりはしない。 自分に自信がなかったあの頃とは違う。 揺るぎない蒼い瞳は真っすぐにせつなをとらえていた。 「別れた覚えはないけど?」 「え?」 「美希は距離をおきたいって言っただけでしょ。結果的には二年ほったらかされたけど」 「………待っててくれたの?」 「だからそう言ってるじゃない」 ぽたっと涙がこぼれ落ちる。 美希はそれを見せまいとすぐにせつなの肩に顔をうずめた。 覚悟はしていたつもりだった。 せつなは他の誰かと付き合っているかもしれないと。 せつなと音信不通になってしまった美希には、せつなのことは風の噂に聞く程度だったから。 「遠い高校に行って寮に入って、蒼乃さんは完璧に私から距離をおいたから」 口癖を用いられ、皮肉られ美希は泣きながら微笑んだ。 そして短く言葉を口にする。 ごめん ありがとう と。 「会いたかった」 「うん」 「すごく……寂しかった」 「うん」 せつなは美希を抱きしめる力を一層強める。 「ずっと……好きだったんだからぁ」 「………ありがとう」 お互いの震える身体を抱きしめ合って温もりを、あのとき分かち合えなかった思いを確かめる。 「あたしも、せつなが好き」 今ならちゃんと言える。 せつなと曖昧に付き合って 沢山傷つけた過去の自分 離れるために勝手なことをした美希を、せつなはずっと待ち続けていた 「もう迷わないよ。あたしはせつなを幸せにする」 「違うわ」 せつなは微笑む。 漆黒の瞳はすべてを包み込むような光をたずさえて。 「二人で幸せになるの」 「そうね」 二人は笑い合い、もう一度口づけを交わした。 そして 手を取り合って歩きだす。 「そういえばラブね、恋人ができたわ」 「へぇ。せつなちゃんはあたしを試してる?」 どうかな とせつなは笑って応える。 美希は握っていただけの手を絡み合わせるように繋ぎ直した。 「あたしラブに酷いことしちゃったな。せつなを奪っておいて傷つけて泣かせてほったらかして」 「ああ、うん。美希は最低だって、馬鹿だって言ってた」 「謝ったら許してくれるかしら?」 「ビンタの一発はもらうかもね」 「それくらい、甘んじて受けるわ」 「売れっ子専属モデルなのに?」 「将来有望な読者モデルの顔をひっぱたかれた事がありますから」 耐性がついた そう言って美希はクスリと笑った。 「ブッキーにもね」 「ブッキーには一発もらったわ」 「え?」 「寮に押しかけられて、グーで」 「うわぁ……」 美希は思い出して身体を震わせる。普段怒らない祈里のことだ。相当の覚悟を持って行ったのだろうとせつなは思った。 「おかげで気づいたこともたくさんあった。まぁ多分もう一度殴られるけど」 帰ってきたら覚えてなさいよっ 祈里が美希に残した言葉。 彼女らしからぬ言葉がその時の祈里の心情を物語っている。 「帰ってくる場所があるって、ブッキーは教えてくれたのかも」 「最高の親友よね」 怒らせちゃいけないことを学んだと美希は小さく呟いた。 「それで、どう幸せにしてくれるつもりだったの?」 「聞きたい?二年間考えぬいた最高の計画を」 「どんなこと?」 美希はにやりと笑う。 「二年じゃわからないってこと。ううん、むしろ何年かかっても先の幸せなんてわからないのかも」 「よくそれで幸せにするって言ったわね」 せつなはあきれたようでふっと微笑んだ。 「一緒にいたいって思ったの。そばにいてくれたらそれだけで幸せだろうなって」 「確かに、私は今幸せかもしれないわね……」 遠回りをしたけど こうして二人一緒になれた また すれ違ってしまうこともあるだろう それでももう前とは違う 今度は二人で乗り越えられる 「あたしの『これから』を、全部せつなにあげる」 「いいの?そんなこと言って」 「もちろん」 新しい日々は今 はじまったばかりだから――― END
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/955.html
「風邪ひくわよ」 窓を開けてイースがベランダに出る。 声をかけられた人物はまだここを動く気はないらしく、にやりと笑ってイースの服の袖を掴んだ。 「涼しいから」 「美希……普通に寒いわよ」 文句を言いつつイースは美希の隣に並ぶ。 時刻は夜中。 森の中にある屋敷を照らすのは月明かりだけだった。 「まだここにいるの?」 「ねぇ」 質問には答えず、美希はイースを見る。 「なに?」 「ちゅーして」 「嫌よ」 静寂の中くすくすと笑い声が響く。 美希はイースの銀色の髪を一房掴むとくるくると指で弄ぶ。 「いっつもしてるのにね」 「……………」 イースは眉を寄せ美希の手を取るとそっと髪から離した。 つまらなそうな顔をして大人しく美希は手を下ろす。 「イースはあたしのこと好き?」 「そうね」 「つれないなぁ」 イースは無表情な顔でしな垂れかかっていた美希と距離をとるが、強い力で美希がそれを許さない。 「何をそんなに怒っているの?」 「別に……」 イースの手に、美希は自分の手を絡め、相手の冷たい指の温度を感じながら微笑を浮かべる。 首筋に柔らかいものが当たる。 イースは平静を保とうとするが、それを嘲笑うように美希の舌はイースの理性を削り取っていく。 「ねぇ……なに」 美希が触れた場所、イースの身体が朱く染まっていく。 イースの拒む手が緩んだ隙に、服を少しはだけさせ肩を出す。 「相変わらず綺麗ね」 何度見ても変わらぬ美しい身体。つーっと滑らかな線にそって指をはわすとびくっとイースが身じろいだ。 「寒いってば」 「あー、はいはい。流石に風邪ひかせたくないし中入ろうか」 ぱっと美希はイースから手を離すと、部屋の中にすたすたと戻っていく。 あまりにあっさりとした対応にぽかんとしていたイースだったが、来ないのと促され慌てて部屋に戻る。 「おやすみ」 美希はベットに向かうとそそくさと毛布に包まりイースに背を向けた。 今までケンカしたことは何度かある。しかし、ケンカと言ってもちゃんと理由があって話し合って。 どんなにイースが拗ねたり怒ったりしても、美希は決してイースを突き放すことはなかった。 「ねぇ、私何かした?」 理由がわからないからなおさらもどかしい。 「なんでもないってば」 さっきよりもとげとげしい言葉で返されてしまった。 溜息を一つついて、イースは美希の隣に腰を下ろす。 いつもなら優しく抱きしめてくれる腕が今日はない。イースは今だ外にいるような寒気を感じ美希の背中にくっついた。 自身の腕を美希の身体に巻き付けると美希は身じろいだが、イースはぎゅっと抱きしめる。 「ごめん」 「何が?」 「何もわかってあげれてないから」 「…………あー、もう。ごめんなさい」 美希はくるっと向きを変え小さな声で謝った。 イースは美希の髪を優しく梳く。 「私のせい?」 「イースのせい………………バレンタインが憎い」 「は?」 思わずイースは間抜けな声を出してしまった。 自分が原因だろうとは予想していたが、その次の答えは予想外だった。 「えっと、バレンタインって好きな人にチョコを贈る日なのよね?恋人だったり、友達だったり……」 イースの言葉にぴくっと美希が反応を示す。 「そうね。好きな人に……まぁ友達とかもだけど、そうだけど、そうなんだけど」 「美希?」 ぶつぶつと一人で喋っていた美希は名前を呼ばれはっとイースを見る。 「イースが……」 「私が」 イースはごくりと息をのむ。 「イースのチョコケーキで300グラムでぶった!!」 かくんとイースはよろける。 身体中を一気に脱力感が襲った。 「太ったって……それくらい、ああ、だからバレンタインが?」 「モデルにとったら大問題よ!!美味しいから食べ過ぎちゃったし!」 「……………」 「なに?」 「もーーー、よかったぁ」 「やっ、ちよっと」 イースは美希にがばっと抱き着く。 もしかしたら嫌われてしまうことをしてしまったのではないかと焦っていた自分が微笑ましい。 「…………あんな態度とってごめんなさい」 美希もイースを抱きしめる。 付き合うようになって幸せが増えた分、付き合っていなかったころにはなかった『恋人』という関係が壊れるのがとても怖くなった。自分が美希の行動に一喜一憂し、振り回される。 「大好き」 「え、ああ、うん。あたしも」 言葉で思いを伝えて、絆を確かめる。 こんなにも曖昧なものを大事にしている自分が可笑しくなった。 でも曖昧だからこそこんなにも欲してしまうのかもしれない。 イースは美希におでこをくっつけくすくすと笑った。 その様子を見て、美希はきょとんとしている。 「なにがそんなに面白いの」 「嬉しいの。おやすみ」 「ぅえ!?ここから甘い流れじゃないの」 「え?眠いんでしょ」 「さっきのそのまま受け取ったの?……やっぱりイースはイースだよね」 「どういう意味よ」 「もう知らなーい。よし、まだ半日しかたってないけどお返しあげる」 「そういうのはいらない」 「なんでそういうことには気づくのよ!」 ちゅ 「おやすみ美希たん」 「ばか……」 翌朝 「―――で怒ってたのよ。モデルも大変よね。そのくらいで気にするなんて」 「え?おい、美希おまぐえっ」 「なに、ウエスター」 美希はウエスターの足を思いっきり踏み付けた。 テーブルの下でそのようなことが行われていることにイースは気付いていない。 「ねぇ、イース。珈琲なくなっちゃった」 「いれてくれば?」 「イースがたててくれたのが飲みたいの」 しょうがないとイースはまんざらでもない顔をして立ち上がった。美希はにこにことそれを見送る。 「さて、何か言いたそうねウエスター」 「お前昨日の傷を……」 ウエスターは美希を睨みつけた。その目には踏まれたことにより少しだけ涙が溜まっている。 「昨日、機嫌悪かったのはイースが俺達にチョコくれたからじゃなかったのか?」 「そうだけど」 「じゃあなんで嘘ついたんだ?あれじゃあイースのチョコで俺達が酷い目にあったこそすら本人は知らないままだ」 「太ったのはほんとよ。まぁすぐ戻すから気にしないけど。イースにはあれでいいの」 「なんでだ」 「あたしがそんなことでヤキモチやいたとか、全然完璧じゃないでしょ」 END
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/802.html
せつな 「ねえ、ブッキー。何してるの?」 ブッキー 「動物占い。おもしろいよ」 せつな 「へえ、私は何かしら?」 ラブ・美希「犬!」 せつな 「ラブと美希には聞いて無いわ。というか、なんでハモるのよ」 ブッキー 「あはは、せつなちゃん素直で真面目だものね。犬みたいに」 せつな 「じゃあ、犬なのかしら?」 ブッキー 「残念、犬は無いのよ。十二種類の動物に例えられるの。せつなちゃんはゾウかな」 ブッキー 「えっとね、ゾウの特徴。真面目・一途・努力家。そして、頑固で自信家で強がりを言う」 美希 「あはは、ホントせつなそのものね。凄く面白いわね」 せつな 「フンだ。美希は何なのよ」 ブッキー 「美希ちゃんは黒ヒョウ。美人でおしゃれ。弱みを見せない女王様タイプ。仕切り屋で攻撃的な一面も」 せつな 「なるほど、ピッタリね」 美希 「なんか、どこで納得されてるのか非常に気になるんだけど……」 ラブ 「あたしは猫かな?」 ブッキー 「猫も無いのよ。ラブちゃんは猿」 ラブ 「さっ……猿~~?」 ブッキー 「猿の特徴はね、明るく活発。世話焼きで、賑やかな場所を好む。おだてに弱いお調子者」 美希・せつ「あたってるわね」 ブッキー 「最後に、わたしは狸。愛嬌があって受身。天然でかわいい」 ラブ 「ちょっと貸して」 ブッキー 「あぁ、ダメ! ラブちゃん」 ラブ 「え~と、タヌキはね。かわいいとは書いてないよ? なんにでも化けられる。根拠のない自信を持っている。だって」 美希 「へ~自分だけ都合のいいことを言ってたのね」 せつな 「ブッキーは化けてるのね? 自信、あるのね」 ブッキー 「なっ、ないよ。化けてもいないよ。全部当たってるわけじゃなくて」 美希 「このさい、ブッキーの正体を調べてみましょう。自信の根拠もね」 ラブ 「くすぐってみる? あ、葉っぱを取ったら変身解けるとか聞いたことあるよ」 ブッキー 「きゃあ、やだやだ! あは、あはははは、くすぐったい、やめて! それに服を脱がさないで! たすけて~」 タヌキの本日の運勢。対人関係に注意。口は災いのもと。――――合掌。